全国を巡る中で、今でも忘れられない出来事があります。
今回の舞台は、仙台です。
接客前には、仙台駅近くのテラスでずんだシェイクを飲んで、
「よし、今日も頑張ろう。」
と気合を入れていました。
そんな楽しい思い出もあります。
でも同じくらい、今も心に残っている苦い記憶があります。
それは、同じお店で働いていた一人の女性との出来事です。
🌸 「ぼろぼろにならないでね」
その女性と最初に会ったのは、私が入店した日のことでした。
挨拶をすると、周りが淡々としている中で、その人だけが親切に返してくれました。
そして、
「これから不安なこともあると思うけど、ぼろぼろにならないでね。」
そんな言葉をかけてくれました。
優しい人だな。
それが最初の印象でした。
ところが、しばらく働いているうちに気になることが増えていきました。
出勤しても体調が悪そうで、途中で帰ってしまうことがある。
泣きそうな顔をしていることもある。
周囲からは、体調のことや働き方について、いろいろな噂も耳にしました。
もちろん私は、彼女の事情をすべて知っていたわけではありません。
それでも、
「この人、大丈夫なのかな。」
そんな心配が少しずつ大きくなっていきました。
🌸 真面目だからこそ、断れないこともある
夜の仕事では、ときにお客様から強い要求を受けることがあります。
業界に入ったばかりで、何が普通なのか分からない。
断ったら嫌われるかもしれない。
お客様が来なくなるかもしれない。
お店に迷惑をかけるかもしれない。
そんな不安が重なると、本当は嫌でも断れなくなってしまう女性もいます。
例えば、
「これをしないと、もう来ないよ。」
「みんなやってるよ。」
「これくらい普通だよ。」
そんな言葉を向けられたとき。
経験が少なく、情報も持っていなければ、
「私が間違っているのかな。」
と思ってしまうことがあります。
そして無理を重ねるほど、
身体にも。
心にも。
働き方にも。
少しずつ負担が積み重なっていきます。
当時の私は、そうした悪循環を何度か目にしていました。
🌸 「私と彼女、何が違ったんだろう」
ある日。
その女性が、いつも以上につらそうな姿で出勤してきました。
私は、一気に血の気が引くような感覚になりました。
「どうして、ここまで。」
「私と彼女、何が違ったんだろう。」
そんなことを考えました。
私だって、最初から知識があったわけではありません。
騙されたこともあります。
怖い思いもしました。
それでも、たまたま気づけたことがあった。
たまたま教えてくれた人がいた。
失敗しながら、自分を守る方法や、お客様を選ぶ方法、集客の仕方を少しずつ覚えることができた。
でも。
もし、その小さな違いがなかったら。
私だって、同じ場所にいたかもしれない。
そう思いました。
🌸 見えているのに、何もできない
彼女と実際に会えたのは、数えるほどしかありませんでした。
まだ知り合ったばかり。
相手の人生に、どこまで踏み込んでいいのかも分かりません。
頭の中では何度も考えました。
「私には、気づいていることがある。」
「伝えられることもあるかもしれない。」
「でも、それを突然押しつけるのは違う。」
彼女には彼女の考えがあります。
自分の選択があります。
その境界線を、こちらの正義で勝手に越えていいわけではありません。
でも、
隣にいるのに、見ていることしかできない。
そのことが、とても苦しかったのを覚えています。
「次に会ったら、もう少し話してみよう。」
そう思っていました。
でも、その後。
私は彼女と会うことはありませんでした。
🌸 助けが必要な人ほど、情報へ届きにくい
全国を巡るうちに、彼女とは違う事情を抱えた女性たちも見ました。
言葉の壁がある。
自分に合う仕事を探すことが難しい。
情報を調べることが苦手。
経済的に追い詰められていて、考える時間そのものがない。
事情は一人ひとり違います。
けれど、
本当に余裕がない人ほど、自分を守るための情報や選択肢へたどり着きにくい。
そんなことを感じるようになりました。
選択肢が少なくなる。
条件の良くない環境でも、
「ここしかない。」
と思ってしまう。
そして、さらに抜け出しづらくなる。
私はそれまで、
「全国を回って、いろいろな世界を見てきた。」
と思っていました。
でも、まだ見えていない現実がたくさんあったのです。
🌸 もし、本当に女性のための場所をつくるなら
この頃。
実は私の中に、後の「夜の道しるべ」につながる原型のようなものが、うっすらと見え始めていました。
同じキャストという立場では、できることに限界があります。
お店側には、お店側の事情があります。
お客様にも、それぞれの立場があります。
だったら。
そのどちらでもない場所から、
女性自身の立場で考える存在があってもいいのではないか。
お店の選び方。
自分を守る方法。
集客の方法。
働き方。
これまで自分が失敗しながら覚えてきたことを、
誰かが同じところで傷ついたり、遠回りしたりする前に伝えることができたら。
そんな場所があったらいい。
初めて、そんなことを考えるようになりました。
🌸 でも、「私がやる」とはまだ言えなかった
ただし。
ここで、
「じゃあ私がやります。」
とは、すぐには思えませんでした。
むしろ反対でした。
「本当に私でいいの?」
「もっと強い人がやるべきなんじゃない?」
「この世界と関わり続ける覚悟が、自分にあるの?」
そんな迷いばかりでした。
夜の世界には、複雑な事情があります。
簡単に白黒をつけられないこともあります。
社会からの見られ方も決して簡単ではありません。
誰かを支えるなら、
優しい気持ちだけでは足りない。
責任も。
知識も。
覚悟も必要です。
私には、それを背負える自信がまだありませんでした。
🌸 答えは、もう近くにあった
高校生の頃から、私はずっと探していました。
「私は、どんな仕事をしたいんだろう。」
もっと言えば、
「私は、誰のために頑張りたいんだろう。」
この頃には、その答えが少しずつ見え始めていました。
夜の世界で、
一人で頑張っている女性。
傷つきながらも働いている女性。
本当はもっと選択肢があるのに、
それを知らないまま立ち止まっている女性。
私は、この人たちのために何かできたらいい。
そう思っていました。
でも同時に、
「本当に私で大丈夫?」
という声も、まだ消えません。
答えは見えている。
でも、その道を選ぶ覚悟まではできていない。
私はその想いを心の中にしまったまま、
もう少しだけ旅を続けることになります。
神楽こまち

🌸 夜の道しるべの歩み
「頑張る女性が、自分を削らなくても生きていける場所を作りたい。」
そんな想いから始まった活動です。
夜の道しるべの歴史や、これから目指している未来についてはこちらからどうぞ。
-
夜の道しるべの歩み
【第23話】隣にいるのに、何もできなかった
-
夜の道しるべの歩み
【第22話】未来でまた会おう
-
夜の道しるべの歩み
【第21話】激安店と高級店、両方で働いて見えたもの
-
夜の道しるべの歩み
【第20話】鬼ヶ島で見つけた、新しい武器
-
夜の道しるべの歩み
【第11話】私は、誰のために頑張りたいんだろう
-
夜の道しるべの歩み
【第19話】吉備団子を持って、いざ鬼ヶ島へ
-
夜の道しるべの歩み
【第17話】赤いリュックを背負って
-
夜の道しるべの歩み
【第18話】次の行き先は、まさかのルーレット
-
夜の道しるべの歩み
【第16話】肩の力を抜いたら、景色が変わった
-
夜の道しるべの歩み
【第15話】一年間で、私に残ったもの
-
夜の道しるべの歩み
【第14話】一人で進むことしか知らなかった
-
夜の道しるべの歩み
【第13話】白か黒かしかなかった頃

