【第23話】隣にいるのに、何もできなかった

全国を巡る中で、今でも忘れられない出来事があります。

今回の舞台は、仙台です。

接客前には、仙台駅近くのテラスでずんだシェイクを飲んで、

「よし、今日も頑張ろう。」

と気合を入れていました。

そんな楽しい思い出もあります。

でも同じくらい、今も心に残っている苦い記憶があります。

それは、同じお店で働いていた一人の女性との出来事です。

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🌸 「ぼろぼろにならないでね」

その女性と最初に会ったのは、私が入店した日のことでした。

挨拶をすると、周りが淡々としている中で、その人だけが親切に返してくれました。

そして、

「これから不安なこともあると思うけど、ぼろぼろにならないでね。」

そんな言葉をかけてくれました。

優しい人だな。

それが最初の印象でした。

ところが、しばらく働いているうちに気になることが増えていきました。

出勤しても体調が悪そうで、途中で帰ってしまうことがある。

泣きそうな顔をしていることもある。

周囲からは、体調のことや働き方について、いろいろな噂も耳にしました。

もちろん私は、彼女の事情をすべて知っていたわけではありません。

それでも、

「この人、大丈夫なのかな。」

そんな心配が少しずつ大きくなっていきました。

🌸 真面目だからこそ、断れないこともある

夜の仕事では、ときにお客様から強い要求を受けることがあります。

業界に入ったばかりで、何が普通なのか分からない。

断ったら嫌われるかもしれない。

お客様が来なくなるかもしれない。

お店に迷惑をかけるかもしれない。

そんな不安が重なると、本当は嫌でも断れなくなってしまう女性もいます。

例えば、

「これをしないと、もう来ないよ。」

「みんなやってるよ。」

「これくらい普通だよ。」

そんな言葉を向けられたとき。

経験が少なく、情報も持っていなければ、

「私が間違っているのかな。」

と思ってしまうことがあります。

そして無理を重ねるほど、

身体にも。

心にも。

働き方にも。

少しずつ負担が積み重なっていきます。

当時の私は、そうした悪循環を何度か目にしていました。

🌸 「私と彼女、何が違ったんだろう」

ある日。

その女性が、いつも以上につらそうな姿で出勤してきました。

私は、一気に血の気が引くような感覚になりました。

「どうして、ここまで。」

「私と彼女、何が違ったんだろう。」

そんなことを考えました。

私だって、最初から知識があったわけではありません。

騙されたこともあります。

怖い思いもしました。

それでも、たまたま気づけたことがあった。

たまたま教えてくれた人がいた。

失敗しながら、自分を守る方法や、お客様を選ぶ方法、集客の仕方を少しずつ覚えることができた。

でも。

もし、その小さな違いがなかったら。

私だって、同じ場所にいたかもしれない。

そう思いました。

🌸 見えているのに、何もできない

彼女と実際に会えたのは、数えるほどしかありませんでした。

まだ知り合ったばかり。

相手の人生に、どこまで踏み込んでいいのかも分かりません。

頭の中では何度も考えました。

「私には、気づいていることがある。」

「伝えられることもあるかもしれない。」

「でも、それを突然押しつけるのは違う。」

彼女には彼女の考えがあります。

自分の選択があります。

その境界線を、こちらの正義で勝手に越えていいわけではありません。

でも、

隣にいるのに、見ていることしかできない。

そのことが、とても苦しかったのを覚えています。

「次に会ったら、もう少し話してみよう。」

そう思っていました。

でも、その後。

私は彼女と会うことはありませんでした。

🌸 助けが必要な人ほど、情報へ届きにくい

全国を巡るうちに、彼女とは違う事情を抱えた女性たちも見ました。

言葉の壁がある。

自分に合う仕事を探すことが難しい。

情報を調べることが苦手。

経済的に追い詰められていて、考える時間そのものがない。

事情は一人ひとり違います。

けれど、

本当に余裕がない人ほど、自分を守るための情報や選択肢へたどり着きにくい。

そんなことを感じるようになりました。

選択肢が少なくなる。

条件の良くない環境でも、

「ここしかない。」

と思ってしまう。

そして、さらに抜け出しづらくなる。

私はそれまで、

「全国を回って、いろいろな世界を見てきた。」

と思っていました。

でも、まだ見えていない現実がたくさんあったのです。

🌸 もし、本当に女性のための場所をつくるなら

この頃。

実は私の中に、後の「夜の道しるべ」につながる原型のようなものが、うっすらと見え始めていました。

同じキャストという立場では、できることに限界があります。

お店側には、お店側の事情があります。

お客様にも、それぞれの立場があります。

だったら。

そのどちらでもない場所から、

女性自身の立場で考える存在があってもいいのではないか。

お店の選び方。

自分を守る方法。

集客の方法。

働き方。

これまで自分が失敗しながら覚えてきたことを、

誰かが同じところで傷ついたり、遠回りしたりする前に伝えることができたら。

そんな場所があったらいい。

初めて、そんなことを考えるようになりました。

🌸 でも、「私がやる」とはまだ言えなかった

ただし。

ここで、

「じゃあ私がやります。」

とは、すぐには思えませんでした。

むしろ反対でした。

「本当に私でいいの?」

「もっと強い人がやるべきなんじゃない?」

「この世界と関わり続ける覚悟が、自分にあるの?」

そんな迷いばかりでした。

夜の世界には、複雑な事情があります。

簡単に白黒をつけられないこともあります。

社会からの見られ方も決して簡単ではありません。

誰かを支えるなら、

優しい気持ちだけでは足りない。

責任も。

知識も。

覚悟も必要です。

私には、それを背負える自信がまだありませんでした。

🌸 答えは、もう近くにあった

高校生の頃から、私はずっと探していました。

「私は、どんな仕事をしたいんだろう。」

もっと言えば、

「私は、誰のために頑張りたいんだろう。」

この頃には、その答えが少しずつ見え始めていました。

夜の世界で、

一人で頑張っている女性。

傷つきながらも働いている女性。

本当はもっと選択肢があるのに、

それを知らないまま立ち止まっている女性。

私は、この人たちのために何かできたらいい。

そう思っていました。

でも同時に、

「本当に私で大丈夫?」

という声も、まだ消えません。

答えは見えている。

でも、その道を選ぶ覚悟まではできていない。

私はその想いを心の中にしまったまま、

もう少しだけ旅を続けることになります。

神楽こまち

🌸 夜の道しるべの歩み

「頑張る女性が、自分を削らなくても生きていける場所を作りたい。」

そんな想いから始まった活動です。

夜の道しるべの歴史や、これから目指している未来についてはこちらからどうぞ。

神楽こまち
地元で夜のお仕事を始め、その後は全国各地でさまざまなお店や働き方を経験してきました。

現在は会社員として働きながら、「夜の道しるべ」を運営しています。

夜の仕事も、その先の人生も。
女性が自分に合った選択肢を安心して選べるよう、これまでの経験を活かして活動しています。
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